2015年10月22日木曜日

研究発表「考古学からみた前2千年紀の南アジア」:2015年10月18日



10月18日に北海道大学で開催された日本オリエント学会第57回大会において、「考古学からみた前2千年紀の南アジア−インダス文明の衰退に伴う社会変化の諸相−」と題した研究発表を行いました。

インダス文明後半期から前2千年紀末にかけての南アジアにおける考古文化群の動向を概観することによって、インダス文明の衰退を契機として各地で進行する社会変化について検討しました。インダス文明の衰退に伴って顕在化した人口の東方移動がその後の北インドと南インドの社会変化の起点になっている可能性を提示し、今後の研究課題についてまとめました。

あくまでも一つの作業仮説ですが、南インド新石器文化の変容と南インド巨石文化の形成の一要因として南インドと北インドの交流関係を想定しており、今後の科研プロジェクトの調査・研究によって、この社会変化に影響を及ぼした交流関係の可能性を具体的に検証していきたいと考えています。

2015年10月12日月曜日

研究発表「南インド巨石文化の調査」:2015年10月10日


去る10月10日にインド考古研究会例会にて、「南インド巨石文化の調査」と題した研究発表を行いました。これまでの予備調査の成果について発表したもので、今後の研究課題を展望するという内容でしたが、参加者の方から多くのご教示を頂戴しました。今後の調査・研究に活かしていきたいと思っています。

2015年7月23日木曜日

第1回研究会を開催しました:2015年7月18日

去る7月18日に、「南インド先史文化編年の構築」に関する第1回研究会を関西大学にて開催しました。発表者・論題は下記の通りです。

1)上杉彰紀「南インド先史文化研究の現状と課題」
2)清水康二「ヴィダルバ地域環状列石墓の編年」
3)中山誠二・上杉彰紀「レプリカ法を用いた南アジアにおける栽培植物の研究」
4)長柄毅一「インド及びその周辺における青銅器研究」
5)笹田朋孝「古代インドの鉄生産研究の現状」
6)田中眞奈子「鉄文化財の自然科学的分析からわかること−パルス中性子及び高エネルギーx線を用いた鉄文化財の非破壊分析研究を中心として−」

上杉は、南インド新石器文化と南インド巨石文化の研究の現状と課題について紹介しました。南インド先史文化編年研究の上では、新石器文化から鉄器時代の巨石文化への変化が最も大きな課題であり、巨石文化期になって出現する文化要素の時空間的位置を明らかにしていくことの重要性を再確認しました。

清水さんの発表は、現在のマハーラーシュトラ州東部のナーグプル周辺地域(古代にはヴィダルバ地域と呼ばれていました)における巨石墓の編年に関するものです。この地域には環状列石をめぐらし、その内部に遺体と副葬品を安置し、その上に小礫と土を混ぜて墳丘をつくる形式の墓が主体的に分布していますが、この地域の巨石墓には高錫青銅製品や鉄製品が多く副葬されています。清水さんは、それら金属製品の形態変異の整理と、編年的位置づけについて考察されました。こうした遺物の型式学的編年研究はこれまでほとんどなされておらず、地域ごとに詳細な研究が求められています。

中山さんには、6月13日の日本西アジア考古学会での発表内容を骨子としつつ、日本の縄文時代の栽培植物研究の成果も踏まえてお話しいただきました。近年、日本列島で急速に研究成果が蓄積されているレプリカ法による栽培植物研究は、従来の水洗法による大型種子の研究だけではわからなかったことを明らかにしつつあります。この方法を南インドの先史文化研究に応用することにより、南インド先史文化における栽培植物の研究に取り組みたいと考えています。

長柄さんのご発表では、これまでご自身が進められてこられた南アジアの青銅製品の分析成果の紹介と今後の研究課題についてまとめていただきました。南インド、特にマハーラーシュトラ州東部のナーグプル周辺地域では、巨石文化期になって錫比率の高い青銅製品が出現することが明らかになってきており、その起源の解明が南インド巨石文化の成立において重要な意味をもっていると考えられます。南インド巨石文化が「外来」文化であるのか、南インドの「自生」文化であるのか、遺物の個別研究からアプローチしていくことが重要と考えられます。

笹田さんには、ご自身の東アジアでの鉄研究の成果を踏まえつつ、南アジアにおける鉄研究の現状についてお話しいただきました。巨石文化期の墓には鉄製品が多く副葬されますが、その生産がどのように南インドに導入されたのか明らかにするためには、巨石文化期における製鉄技術の解明が不可欠です。本研究において、南インドにおける鉄の問題は非常に大きな研究課題であり、資料の蓄積と分析を進めていきたいと考えています。

田中さんには、文化財科学の視点から、ご自身の研究成果をもとにした鉄研究の可能性についてお話しいただきました。さまざまな分析方法が開発・応用されている文化財科学の最新の成果についてご紹介いただきましたが、インドの資料の分析をどのようにして進めていくか、文化財科学と考古学の成果をどのように統合していくかなど、本研究の中でその可能性を模索していきたいと考えています。

インド現地での調査はこの冬に予定していますが、現在の段階では既往の研究成果の整理とその問題点の把握、今後の調査・研究の可能性を展望することが求められています。今回の研究会は、異なる分野の研究者がそれぞれの立場から今後の研究を展望してくださり、大変実りのあるものとなりました。



2015年7月6日月曜日

プロジェクトに関する学会発表:2015年7月5日

7月4・5日に金沢大学で開催された第22回ヘレニズム〜イスラーム考古学研究会において、「「インド系」石製装身具の生産と流通」と題した口頭発表をしました。南アジア、西アジア、東南アジアで出土する「インド系」石製装身具について、今後の研究課題をまとめた内容で、今後の研究の出発点にできればと考えています。



特に東南アジアにおける「インド系」石製装身具は西暦紀元前後の時代の海洋交易に関わる遺物で、近年東南アジアでも研究が進みつつあります。前3千年紀から後1千年紀まで長期的な「インド系」石製装身具の動向を検討することにより、海洋交易の変遷や、その各地の社会に対する影響・意義を明らかにすることができるのでは、と考えています。

南アジアに関してはだいぶ資料も揃ってきましたが、西アジア、東南アジアにおける資料を少しずつでも分析・研究の範囲に加えていきたいと考えています。

2015年6月16日火曜日

プロジェクトに関する研究論文

この3月に刊行された論文のPDFをあげておきます。タイトルをクリックすると、PDFが開きます。

上杉彰紀・清水康二・長柄毅一・杉山拓己・ViragSontakke「南インドにおける巨石墓に関する基礎的研究−3Dモデルによる記録化をもとに−」『奈良県立橿原考古学研究所紀要 考古学論攷』38:57-78頁.2015年3月.


南インドの巨石墓について研究の現状と今後の課題をまとめたものです。今年度以降の調査で、各地の巨石墓の記録化を進め、巨石墓型式の実態の把握を進めていきたいと考えています。





プロジェクトに関する学会発表:2015年6月13日

去る6月13・14日に名古屋大学で開催された日本西アジア考古学会第20回大会において、プロジェクトに関する研究発表を行いました(下記の発表論題をクリックすると、発表要旨が開きます。いずれも『日本西アジア考古学会第20回総会・大会要旨集』所収です)。

1)上杉彰紀「南アジアにおける石製玉類穿孔技術の展開」
2)中山誠二・上杉彰紀「レプリカ法を用いた南アジアにおける栽培植物の研究」



「南アジア先史文化編年の構築」プロジェクトでは、南インドにおける物質文化の変容の解明とその編年の構築を目的としていますが、今回の発表で取り上げた石製玉類、栽培植物は、そうした研究課題の達成において非常に重要なテーマです。発表で取り上げた資料は、北インドの資料が中心で、南インドの資料はまだまだわずかですが、今年度以降の調査・研究でより多くの資料を得ることが期待できます。

今回の発表で提示した作業仮説の検証をめざして調査を進めていきたいと思っています。





2015年4月15日水曜日

2015年4月14日火曜日

研究のはじまり

ケーララー州マラユール地域の景観
この地域にも数多くの巨石文化遺跡が分布しています。


日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(B)(海外学術調査)の交付を受けて、「南インド先史文化編年の構築」と題した研究が始まりました。

南インドの新石器文化とそれに続く鉄器文化を研究の対象としたもので、現地調査を中心に、南インド先史文化の実態を把握し、その変化を時空間軸上に位置づけることによって、社会・文化の変化を明確にするための編年(時間の物差し)の確立することを目的としたものです。

ウェブサイトとともにブログも開設し、研究成果をご紹介する場として活用していきたいと思います。

ウェブサイトのアドレスはこちらです。
https://sites.google.com/site/southindiachronology/

(上杉)